
2026年、中国自動車産業の実像
中国の自動車産業を一つの物語にすると、必ず嘘になる。内は冷えている。外は熱い。2026年の数字は、その裂け目を隠さない。
8月の中国国内乗用車小売は154万台、前年同月比23・6%減。同年2月の25・4%減に次ぐ落ち込みだ。
中国乗用車連合会(乗連会)の集計:1~8月累計は1171万台、20・8%減。年末に多少戻っても、通年で1割半以上沈む、という見方が現場ではすでに「楽観」側に属する。金九銀十に入り、テスラは在庫に現金を載せ、小米(Xiaomi)はゼロ金利と保険補助を出す。季節の名前は残っている。中身は消化戦だ。
中国自動車協会の統計では、8月の自動車内販は170万台、24・2%減。1~8月は1316万台、21・8%%減。同じ月、輸出は101万台。三か月連続で百万台を超えた。1~8月の累計は715万台で、すでに2025年通年を上回る。乗用車だけ見ても8月88・8万台、77・8%増、累計609万台、75・7%増。
中国自動車業界は2026年の輸出が1000万台を超える可能性を口にし始めた。工場の稼働を支えているのは、国内の駐車場ではなく、港だ。

内の構造:燃料が先に折れた
8月の燃料乗用車小売は4割減。自主も主流合弁も、落ち方は似ている。高油価が背中を押した、と説明されるが、本質は置換だ。新エネ小売も10・1%減っている。自主は11%減、豪華ブランドは12%減。主流合弁だけ35%増えた。広汽トヨタの鉑智3X、東風日産のN7のように、現地開発と価格で取りに来た車が、穴の一部を埋めた。日系全体のシェアが削られる話と、個別車種が売れる話は、同時に成り立つ。
自主の新エネを削ったのは、国補の退坡である。2025年に数を稼いだ軽型EV車は、2026年に補助が細り、魅力が落ちた。長安自動車はLuminの5万元(約116万円)未満を畳んだ。安い車で台数を積む戦略は、財政が手を引くと一気に薄くなる。内販の不振は「中国人が車を買わなくなった」ではない。買う理由の一番安かった段が、政策ごと消えた。
外の数字と、利益の隙間
奇瑞自動車は1~8月に133・8万台を出し、販売の約7割が輸出、と中汽協は数える。命綱、という言葉は修辞ではない。上半期の世界電動車販売上位十グループのうち、BYD、吉利、上海自動車(上汽)、奇瑞、零跑、長安の六つが中国系で、占有は62・3%。BYDは229万台で首位。欧州では中国系が53・2万台、前年同期比90・6%増、シェアは15・6%から22・3%へ。EUの追加関税があっても、価格、複数ブランド、現地化、プラグインの伸びが穴を開けた。新興国では電動車108万台のうち中国系59・9万台、55・4%。伸び率は倍近い。
ただし半年報は、台数の隣に為替を置く。上海自動車の財務費用は上期27・5億元(約640億円)の損失。前年同期は17・8億元の益だった。為替レートが理由だ、と会社は書く。BYD、長安、奇瑞、吉利にも似た項目が出る。売った台が、同じ人民元に戻ってこない。「一帯一路」沿線では人民元決済を選ぶ動きが強まり、小通貨のリスクを格付けして監視する、と銀行側は助言する。輸出は生命線だが、生命線には為替という摩擦熱がある。
一千万台の先は、組立では持たない
2025年の輸出は700万台超のうち、海外生産は百万台規模、との整理がある。残りは船に乗る完成車である。中国汽車技術研究中心の呉松泉氏は、「十五五」のあいだに輸出数量が天井を打つ可能性を指摘する。 自動車工業の基盤がある国は、雇用と税と産業安全保障のために現地生産を求める。ブラジルは2026年7月、新エネ完成車の輸入関税を35%へ戻し、十年超の優遇を閉じた。タイのBOIは、消費税の優遇を現地化率に結び、純輸入のEVを厚く課税する案を検討中だ。中国勢はタイに工場を置いているが、付加価値部品と開発までは届いていない組立も多い。バンコクが欲しいのは、輸出拠点としてのタイであり、港に並べる完成車ではない。
ドイツの戦略コンサルティング会社ローランド・ベルガーの徐虎雄氏は、外資が中国に根を張るのに十~二十年、中国勢の海外も五~十年、と置く。今の熱は貿易の熱である。次の十年は、工場と部品と残価と金融を現地に置けるかどうかの熱になる。関税は敵意というより、相手国の自動車が「支柱」であることの証明だ。
産業の実体は、二つ同時にある
内販が二割減でも、値引きは止まらない。在庫を港に回す前に、店頭で現金を積む。見かけのシェアは守れるが、一台あたりの粗利は削れる。新エネの電池と知能化はコストを下げる一方、ソフトウェアの更新と値崩れは残価を傷つける。残価が読めないと、ローンも保険もリースも厚くならない。日本勢が東南アジアで長く持った強みは、車体そのものより、中古の値段が立つことだった。中国車の輸出が貿易で先行するほど、現地の二番目の市場ーー中古と整備ーーが空になる。空のまま台数だけ増えると、三年後の値引きが、今日の関税より先に壁になる。
過剰能力も、同じ根にある。国内の駐車場が余る前提で増えたプレスと塗装は、輸出が百万台乗っても、全部は埋まらない。埋めるために船を増やすと、相手国の関税が早く来る。埋めないと、工場の減価が先に来る。経営者の選択は、きれいな戦略論ではなく、シフトを何班残すかの話だ。奇瑞のように輸出七割で回る会社と、内販比率が高い会社では、同じ「中国自動車」でも夜勤の意味が違う。産業統計は合計する。現場は、どちらの夜勤かを毎日選んでいる。
中国自動車の「真実」は、世界一の新エネ供給能力と、国内小売の二割減が同居していることだ。工場は止まっていない。止まれない理由が、内から外へ移った。合弁は現地開発で個別に生き残り、自主は微型の梯子を外され、輸出で梯子を掛け直す。欧州と新興国のシェアは本物だ。現地化要求と為替と、価格戦の後の単価も本物だ。
だから成功の定義も分かれる。台数で語れば、2026年は輸出の年になる。損益で語れば、匯兌と値引きと在庫が、港の写真を薄くする。産業政策で語れば、国補が退いたあとに残るのは、知能化と三電のコストと、海外規制を製品に織り込む速度である。日本がかつて学んだのは、輸出の頂点が、現地化の始まりだということだった。中国勢がいま立っているのも、その同じ階段の一段目に近い。内販が戻らなければ、海外の壁はより高く見える。海外が壁になれば、内販の価格戦はより長くなる。真実は、どちらか一方の見出しではない。二つの数字が、同じ工場のシフト表に同時に書き込まれている、という事実だ。
(原文: https://chinanews.jp/archives/37755 )

